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最高裁判所第三小法廷 昭和56年(行ツ)96号 判決 1982年2月09日

東京都千代田区内幸町一丁目二番二号

大阪ビル第二号館八六四号

上告人

吉永多賀誠

東京都千代田区神田錦町三丁目三番地

被上告人

麹町税務署長

有馬憲幸

右指定代理人

古川悌二

右当事者間の東京高等裁判所昭和五五年(行ウ)第九一号所得税更正決定処分取消等請求事件について、同裁判所が昭和五六年二月二五日言渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立があった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告人の上告理由について

原審の適法に確定した事実関係のもとにおいて、原審の判断は正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない(最高裁昭和五二年(行ツ)第一二号同五六年四月二四日第二小法廷判決・民集三五巻三号六七二頁参照)。論旨は、いずれも採用することができない。

よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 寺田治郎 裁判官 環昌一 裁判官 横井大三 裁判官 伊藤正己)

(昭和五六年(行ツ)第九六号 上告人 吉永多賀誠)

上告人の上告理由

上告理由第一点

原審判決には、所得税法の解釈及びその適用を誤り、法令に違背する不法がある。仝判決は「控訴人の本訴請求は理由がないと判断するが、その理由の詳細は(一部付加するほか)原判決の理由欄に記載のとおりであるから、これを引用する」としている。

一、原審の引用する第一審判決には、「本件における唯一の争点は、本件顧問料が原告主張のように給与所得を構成する収入か、あるいは被告主張のように事業所得を構成する収入かにある」とし、所得税法二七条一項、所得税法施行令六三条、の規定を挙げ、「事業所得とは、自己の計算と危険において対価を得て継続的に行う業務から生ずる所得で、山林所得又は譲渡所得に該当しないものをいうことが明らかである」とした。

右にいう「自己の計算と危険において対価を得て継続的に行う業務」は即ち事業である。事業はこれを行うにつき費用を要し費用を伴わない事業はない。されば所得税法第二七条一項には「事業所得とは、農業、漁業、製造業、卸売業、小売業、サービス業その他の事業で政令で定めるものから生ずる所得をいう」と定め、仝条二項には「事業所得の金額は、その年中の事業所得に係る総収入金から必要経費を控除した金額とする」と定め、仝法第三七条一項には「その年分の不動産所得の金額、事業所得の金額又は雑所得の金額(括弧内省略)の計算上必要経費に算入すべき金額は別段の定めがあるものを除き、これらの所得の総収入金額に係る売上原価その他当該総収入金額を得るため直接に要した費用の額及びその年における販売費、一般管理費その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用(括弧内省略)の額とする」と定めてある。

これらの規定から考察すれば事業所得とは、事業から生ずる所得であり、事業から生ずる所得とは、これを得るために必要な経費を費して生じて得た所得であること、その所得を得るために必要な経費を要しないものは事業といわず、その生じた所得を事業所得といわないことが明らかである。

二、次に原審判決の引用する第一審判決の判決理由には、所得税法二八条一項の規定を引用して、ここに例示された収入種目の法律的意義と社会通念に照らせば、給与所得とは雇用契約又はこれに準ずる法律関係に基づき、一般に対価支払者の時間的場所的拘束の下で継続又は反覆して自己の労務を提供することにより得られる対価で、自己の計算と危険を伴わないものをいうとある。これは原審判決の独自の見解で税法の条文に反するものである。

民法第六二三条は「雇傭は当事者の一方が相手方に対して労務に服することを約し、相手方が之に其報酬を与ふることを約するに因りて其効力を生ず」と規定し、雇傭契約については対価受領者が対価支払者の時間的、場所的拘束の下で継続的又は反覆して自己の労務を提供することはその要件ではない。先づ対価支払者の時間的拘束についてみるに、労務の提供については時間的拘はその必要がないのである。国家公務員の場合を例にとれば常勤職員と非常勤職員とがあり非常勤職員は常勤職員と異なり給与、任用、勤務時間政治活動、定員等色々な点において特別の取扱いを受けるのであって、非常勤職員には時間的拘束はない。次に場所的拘束についてみる。外務省設置法第六条九項で定めている顧問及び参与の人数を内閣印刷局発行の昭和五五年度職員録によってみると顧問十四名、参与十七名とあるが、外務省にはこれら顧問、参与に与うる事務室はなく、又参与中には日本に住所を有しない者が大勢いる。非常勤職員には勤務場所的拘束はない。又その労務の提供は継続的又は反覆的に行う必要はなく外務省から意見を求められた時、場所において意見を述べれば足るのである。原審が給与所得はこれを受ける者が対価(給与)支払者の時間的、場所的拘束の下で、継続又は反覆して、自己の労務を提供することにより得られる対価としたのは全く法の明文に反する誤った見解である。

三、原審の引用する第一判決は「事業所得と給与所得の基本的な違いは、所得の生ずる業務の遂行ないし労務の提供が前者は自己の計算と危険において独立的になされる点にあるといえるから、ある所得が両者のいずれに該当するかは、具体的事案における業務の遂行ないし労務の提供及び所得の態様を総合的に考察して判定すべきであって、当該業務の遂行ないし労務の提供に関する法律関係が事前に存しているか否か、また、その対価が定期に定額で支払われるものであるか否かという形式的基準によりいちがいにこれを決することはできない」と判示した。

然しある所得が所得税法第二編第二章、第二節第一款の定める所得の種類の何れに該当するかは、先づ第一に所得税法第二三条乃至第三五条の明文により、次に金銭の支払人、受取人間の法律関係により定めるべきものである。所得には給与所得あり事業所得あり、雑所得もあれば一時所得もある。これを区別するのは金銭支払者とその受取人との金銭授受の法律関係により所得税法の各種所得の定めに照らしてなすべきものである。労務の提供及び所得の態様のみ考察して判断すべきものではない。

然るに原審判決の引用する第一審判決が業務の遂行ないし労務の提供及びその所得の態様を総合的に考察して判決すべきものとしたのは判断の前提を誤っている。

国税庁の所得税取扱基本通達個二三―三五共―三には「大工、左官、とび等の受ける報酬のうち、請負契約に基づくものは事業所得とし、雇よう契約に基づくものは給与所得とし課税すべきことは勿論である」とある。これは報酬支払者と職人との間の法律関係が請負契約か雇よう契約か両者間の法律関係により給与所得か事業所得かを定めるべきことを指示したものである。

然るに原審が法令の明文に違背して事業所得、給与所得の意義を定め、独自の見解により右両所得の区分をなし、所得が右両所得の何れに該当するかは具体的事案における事務の遂行ないし労務の提供及び所得の態様を総合的に判定すべきであるとし報酬支払者と報酬受領者との報酬授受に関する法律関係を無視し専ら報酬受領者の事務の遂行ないし労務の提供及び所得の態様という外形的事実によって報酬の性質を判定し、給与所得者たる上告人に対する課税につき所得税法第二八条第二項所定の給与所得控除額を控除して課税する規定の適用を排除したのは法令の解釈適用を誤った不法と、判決理由の不備があるので、原判決は破棄すべきである。

上告理由第二点

一、原審判決の引用する第一審判決はその理由三において、争のない事実関係として、上告人が昭和四九年当時第一東京弁護士会に所属する弁護士として、事務所を有し、使用人を使用し、継続的に弁護士業を営んでいた。上告人と各顧問会社との間で、上告人が、各顧問会社からの法律相談ないし鑑定の依頼に応じて随時法律家としての意見を述べ、これに対し各顧問会社が、右法律相談等の有無にかかわらず一定の時期に定額の報酬を支払う旨の法律顧問契約を締結し、同契約に基づき昭和四九年中に顧問料を受領したこと、同契約は常時数社との間で各別に締結されていたこと、同契約には勤務時間や勤務場所について定めがないこと、上告人はこれにより特定の顧問会社の業務に定時に専従する等の拘束を受けるものでないこと、同契約に基づく法律相談は多くは電話により、時には顧問会社の担当者が上告人の事務所に出向くことによりなされたものであって、上告人自ら、顧問会社へ出向くということは全くなかったこと、右の法律相談はあらかじめ定まった時に定期的になされたわけではなく、顧問会社が必要とする都度、不定期になされたもので、その回数も各社ともおおむね年数回という程度であったことを認め、右争いのない事実関係によって上告人の業務遂行ないし労務提供の態様をみると、上告人が本件各顧問会社に対し法律家としての意見を述べる仕事は、その性質において本来の弁護士業務と別異のものではなくと判示した。即ち上告人が本件各顧問会社に対し法律家として意見を述べるという仕事はその性質において本来の弁護士業務と異なるものではない旨を判示したが原審は一般の弁護士業務の性質につき全然判示するところがないので果して別異のものでないかどうかの理由を欠如している。

弁護士の本来の業務については、弁護士法第三条にその定めがある。これによると弁護士は「当事者その他関係人の依頼又は官公署の委嘱によって、訴訟事件、非訟事件及び異議申立て、再審請求事件等行政庁に対する不服申立事件に関する行為その他一般の法律事務を行うことを職務とする」「税理士の事務を行う」とある。右規定によると弁護士は他人の委嘱にかかる事務を行うものであり、その依嘱者は当事者、関係人、官公署である。

官公署中裁判所は民法、商法(会社法)、民事訴訟法、人事訴訟法、家事審判法、民事調停法、破産法、刑事訴訟法等の規定に基づいて弁護士に委嘱する仕事が多い。次に弁護士が委嘱を受ける事務の内容は、訴訟事件、非訟事件、異議申立事件、再審請求事件等行政庁に対する不服申立事件に関する行為その他一般法律事務、税理士の事務である。右弁護士事務に共通するものは委嘱者は個々の当事者、関係人、官公署であること、委嘱事項は個々の訴訟事件、非訟事件等々であり、その委嘱は一括総括して行われることなく個々の事件毎に委嘱せられ、その報酬は一件毎に支払われるのである。

然るに顧問会社と弁護士との顧問契約は一ケの契約が基本に存在し且存続し、その報酬は基礎契約で定められ、定期に定額で支払われるのである。されば弁護士法第三条の業務を弁護士の本来の業務とすれば、それは弁護士が会社と顧問契約によって行う業務とは全然別異である。

即ち弁護士本来の業務及び報酬は個々の事件毎に委嘱せられ支払われるのであるが、顧問契約による仕事は具体的に発生することがあり又発生しないことがあるが、報酬は仕事の有無に拘らず契約により継続して支払われるのであって両者は別異である。

二、原判決の引用する第一審判決は「原告は、右法律顧問契約により顧問会社から法律相談を受けたときは、これに応ずる義務を負担してはいたものの、各顧問会社が一方的に定める時間的、場所的支配の下に自己の労働力を置き、法律上の助言という労務の提供をしたものではなく、自己の法律事務所において自らの都合に従って本来の弁護士業務を遂行する過程の中で、年に数回程度顧問会社の求めに応じ多くは電話により、時には同事務所を訪れてきた顧問会社の担当者に対し法律上の助言を行っていたものであるから、それは、その仕事の仕方においても独立的であり、原告の営む事業である弁護士業務の一環をなすものとみるべきである。したがって、その対価である本件顧問料は、給与所得ではなく事業所得であるというべきである。」というが、上告人は工場労働者ではないから、相手方の定める時間的、場所的支配の下に労働力を置く必要はないのであるから、このことがないから上告人の所得が事業所得であるという原判決は理由がない。

三、原審の引用する第一審判決はその理由において「原告は本件顧問料は本件各顧問会社との間にあらかじめ締結された労務供給契約に基づき定期に定額で支給された労務供給契約の対価であって、給与所得に該当すると主張するが、右のとおり原告は一定時間自己の労働力そのものを給付することを約したというよりも、自己の弁護士業務の中で法律上の助言を与えることを約したことが明らかであって、その対価があらかじめ一定の期間を単位に取り決められたとしても弁護士が通常その業務の一つとする法律相談の対価であることには変わりなく、これを給与所得ととらえることは困難である」と判示した。

上告人の顧問会社に対する業務は時間的な義務ではない。何時でも何処でも随時随所において履行できる義務で、顧問会社に定時定着をする義務はない。上告人は顧問会社の所謂非常勤職員である、非常勤職員の性質を明らかにするため国家公務員の非常勤職員を例としてその性質を説明すれば左のとおりである。

法務省組織規程第十一条第一項には法務省に特別顧問九人以内を置く、第二項に法務省特別顧問は(中略)法務大臣の質問に答え、又は法務大臣に意見を述べる。第三項に法務省特別顧問は非常勤とするとある。大蔵省組織規程第八条第一項には本省に大蔵省顧問若干人を置くことができる。第三項に大蔵省顧問は非常勤とするとある。右に明らかなように各省の顧問は各省の組織規程において非常勤となっていて何れの省の組織規程にも顧問につき一定した勤務時間の定めはない。

民間会社においても非常勤の顧問や非常勤の重役との間に一定の勤務時間の定めはない。それはその定めをする必要がないからであり、又それは雇用契約の契約要件ではないからである。

次に右判決は「原告は一定時間自己の労働力そのものを給付することを約したというよりも、自己の弁護士業務の中で法律上の助言を与えることを約したことが明らかであって(中略)その報酬を給付所得としてとらえることは困難である」というが、弁護士が顧問会社に給付する労務が弁護士業務の中であるか否かはその報酬が給与所得を構成しないという理由にはならないし他にその理由の説示がない。右判決は理由不備である。

更に原審の引用する第一審判決は、「顧問弁護士の対価があらかじめ一定の期間を単位で取り決められたとしても弁護士の業務の一つとする法律相談の対価であることに変りはないのでこれを給与所得ととらえることは困難である」というが、仮に法律相談の対価である点においても同じでも、それを支払う法律関係によりその対価の性質が異なってくるのである。そのことは上告理由第一点で国税庁基本通達中の大工、左官、とび等の所得区分の点で述べたところである。

なお、原審の引用する第一審の判決は「原告は本件顧問料は格別の経費も危険負担も伴っていないから事業所得とはいえない旨主張するが、経費の多寡によって事業所得であるか否かが定まるものではない」というが、所得税法第二七条は事業から生ずる所得を事業所得とし、所得を得るに必要経費を全然要しないものは事業ではないからその所得は事業所得でないことを明らかにしている。

次に右判決は「本件各顧問会社に対する法律上の助言そのものを独立して取り出せば、格別の危険負担を伴うものではないといえるにしても云々」というが、所得税は一つ一つの収入を独立して取出しそれを所得税法第二編(居住者の納税義務)第一章第二一条所定の順序によって計算し、第二章(課税標準及びその計算並に所得控除)第二節(各種所得の金額計算)第一款(所得の種類及び各種所得の金額)のどの種の所得に該当するかを定めて課税するのである。即ち所得税は各所得者の各種の所得をその所得の種類毎に区分して所定の控除等の計算をして各種所得毎の所得金額を定めてこれを総合して課税するので所得の種類に不拘全所得を十把一からげに一括して課税するのではない。

原審の引用する第一審判決はその理由末尾に「原告はその主張の論拠の一つとして昭和二六年国税庁長官通達を挙げるが、右通達は(中略)既に廃止されていることが明らかでありこれをもって原告の主張を裏付けることはできない」というが、その廃止は通達が誤っているので廃止したのではなく、それは「法律、政令等の規定により明らかなもの又は条理上当然のことを定めたもので通達として存続することを適当としないもの」として廃止せられたものでその通達の内容は正当であったのである。(上告人が第一審に提出し昭和五五年一月二九日の弁論で陳述した昭和五四年一一月二六日付準備書面第八項参照)

原審の引用する第一審判決が判決理由において説示したところは、上告人と顧問会社との特別な継続的基本契約に基づく収入を弁護士法第三条所定の随時発生の収入と同視し、上告人が顧問会社から受ける報酬の性質を上告人の労務提供の仕方のみから判断し、給与所得者に非常勤者と常勤者との別あることを弁識せず、上告人の顧問料報酬を恣に事業所得と認定した法令違背、理由不備の不法があるもので、右判決は破棄せらるべきものである。

上告理由第三点

原判決はその理由中において「本件各顧問会社は、顧問料の支払にあたって、これを弁護士業務に関する報酬または料金として所得税二〇四条一項二号及び二〇五条一号の規定によって所得税の源泉徴収をする反面、健康保険料など社会保険料を本件顧問料の支払に際して徴収せず、控訴人も同法一九四条一項に規定する給与所得者の扶養控除等申告書を顧問会社に提出しなかったものである。したがって、その対価である本件顧問料は、給与所得ではなく事業所得であるというべきである。」としている。

各顧問会社が顧問料につき所得税法第二〇四条第二〇五条により源泉徴収をしたことは顧問料が事業所得であることを決定するものではない。源泉徴収は仝法第一二〇条第一項第四号に基づき確定申告で清算するものであって、支払者が仝法第二〇四条によって取扱っても、仝法第一八三条によって取扱っても、その取扱方如何により所得の法的性質を決するものではない。税務署の取扱は昭和二六年一月一日国税庁直所一-一所得税法に関する基本通達の一〇七項により給与所得とし取扱うべきもので本件の如く訴訟となれば裁判所が法に基づいて給与所得か事業所得かその性質を決定すべきものであって支払先の取扱によって所得の性質が決定されるものではない。原審判決は健康保険料、社会保険料を本件顧問料の支払に際して徴収せず上告人も同法一九四条一項に規定する給与所得者の扶養控除等申告書を提出しなかったことを以て本件顧問料は給与所得でなく事業所得であるというべきであるというが、二ケ所以上から給与を受ける者、他の健康保険組合、国民年金保険に加入している者は、二重に政府保険に加入することができないことは顕著な事実でこれを以て顧問料は給与所得でなく事業所得であるとはいえない。

右原審の右判決には理由がないので破棄すべきである。

上告理由第四点

一、原審判決は、その理由の二において「控訴人主張の事実欄記載一について判断する。所得税法二七条二項は同条一項の事業所得の定義を受けてその事業所得の金額の計算方法を定めただけの規定であることは明らかである。

そして、前記(本判決の引用する原判決の認定判断)のとおり控訴人が顧問契約に基づき本件各顧問会社に対し法律家として意見を述べる仕事は控訴人の営む事業である弁護士業務の一環をなすものであるから、その事業全体の中で必要経費を考えるべきものであることは明らかであり」と判示した。

併し所得税法の各種所得のうちの一種である事業所得は、事業所得(税法第二七条第一項)という種類の所得をいうのであって、事業者という職業人の得る所得をいうのではない。

その職業から見て事業者といわれる人の所得にも利子所得あり、配当所得あり、不動産所得あり、事業所得あり、給与所得あり、退職所得あり、山林所得あり、譲渡所得あり、一時所得あり、雑所得がある。その事業者の所得中事業所得に該当する所得だけが事業所得である。問題は上告人が顧問契約に基づき本件各顧問会社に対し法律家として意見を述べる仕事は上告人の事業であるか否かにある。原審がこの点を審理せず、又何等の理由を付せずに右の仕事が弁護士業務の一環をなすものとしてその報酬を事業所得と速断したのは審理不尽、理由の不備である。

二、次に原審判決は「控訴人が顧問契約に基づき本件各顧問会社に対し法律家として意見を述べる仕事は控訴人の営む事業である弁護士業務の一環をなすものであるから、その事業全体の中で必要経費を考えるべきものであることは明らかであり個々の顧問会社との間の顧問契約に基づく右仕事にあたってそれそれ必要経費を要したかは本件顧問料が事業所得にあたるかを考えるにつき必ずしも問題となるものではない」と判示した。

所得税法第三七条第一項はその事業所得の金額の計算上必要経費に算入すべき金額は、事業所得の総収入金額に係る売上原価その他当該総収入金額を得るため、直接に要した費用の額及びその年における一般管理費その他事業所得を生すべき業務について生じた費用の額とすると定めている。

即ち所得税法第二七条第二項の必要経費はその事業から収入を得るために直接に要した費用をいうのであって、原判決のいうように「その事業全体の中で必要経費を考えるべきものであることは明らかであり」というのは右法文に反し、根本的に誤っている。かかる誤った考えに基づいて、上告人のこの(給与所得であって事業所得でないという)主張は理由がないとしたのは事業所得に関する法令の解釈適用を誤ったものである。

以上

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